医学は理系に分類されていますが、かなり文系的なところがあります。現代学問は専門分化していますが、分化しすぎて、人間を総合的に見る目がなくなっているのが残念です。
そこで、数学者・岡潔(おかきよし)の随筆を紹介します。岡潔『春宵十話』(角川ソフィア文庫)。
岡潔の理系と文系を統合したその慧眼には注目です。
たとえば、
・数学とはどういうものかというと、自らの情緒を外に表現することによって作り出す学問芸術の一つであって、知性の文字版に、欧米人が数学と呼んでいる形式に表現するものである。
・終戦の翌年宗教に入り、なむあみだぶつをとなえて木魚をたたく生活をしばらく続けた。こうしたある日、おつとめのあとで考えがある方向へ向いて、わかってしまった。・・・(中略)・・・それは宗教によって境地が進んだ結果、ものが非常に見やすくなったという感じだった。だから宗教の修行が数学の発展に役立つのではないかという疑問が今でも残っている。
・真善美のうち最も分かりやすいのは美だが、たしかに美は実在する。私はこの実感を確かめるのがうれしくて、よく絵の展覧会を見に行く。・・・(中略)・・・それは数学の最もよい道連れは芸術であることを知ってもらいたいからである。
などなど、理系的思考であっても、霊性、芸術性が必要であることがよく分かる。
春宵十話 (角川ソフィア文庫)/KADOKAWA/角川学芸出版
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